Guest Profile
志村 則彰(しむら・のりあき)
インタビュー世界市場での成長も目指し サプライヤーから製品メーカーへ。技術の変化にチャレンジし続ける
1.バーコード読み取り機で圧倒的シェアを誇る
コンビニエンスストアやスーパーなど店頭に並ぶ商品に必ずついているバーコードは、代金決済はもちろん商品管理には欠かすことのできないアイテムのひとつだ。現在では、流通業界のみならず工場などの製造現場や医療分野にも用途が広がっている。その各種バーコードを読み取る装置の製造・販売を手掛けるのが、オプトエレクトロニクスだ。
バーコード読み取り装置の心臓部と言われるモジュールエンジンは、バーコードにレーザーを照射し、その光の反射で瞬時にデータを解析し読みとるためのキーデバイスだ。車のエンジンと考えるとわかりやすいだろう。
オプトエレクトロニクスは日本で初めてレーザーモジュールの製品化に成功し、レーザーモジュールエンジンのシェアは国内で90%以上を誇る。スーパーやコンビニで使われているハンディターミナルや、宅配便を配達・集荷するスタッフが持つハンディターミナルのほとんどに同社のモジュールが搭載されている。 また、世界を見回しても高水準の製品を提供できるのはオプトエレクトロニクスのほかにはあと数社しかなく、同社は欧米、アジア、南米などに販売網を持ち、海外での売上比率が全体の7割近くを占めるグローバル企業だ。
2.技術だけで人は集まらない上場効果で採用力をアップ
そのオプトエレクトロニクスがJASDAQ市場に上場したのは2004年11月。1976年の設立以降、全く上場を考えていなかった同社を上場へと向かわせたのは現在、取締役会長を務める志村則彰氏だ。志村氏はカシオ計算機で要職を歴任後、2000年に現職に就いた。当時は「まるで町工場のようだった」という同社。その会社をなぜ上場させようと思ったのだろうか。
志村氏の目的はたったひとつ「人のため」だった。「優れた製品を作っていても、就職活動で国内大手企業とオプトエレクトロニクス両社から内定が出たら、親は必ずと言っていいほど大手企業を勧める。最低限、上場していないとだめだ」と感じたからだという。
優れた人材が欲しくても入社してもらえないもどかしさに加えて、人を活かしながら良い製品を生み出し続けてきた自身の過去の経験が、オプトエレクトロニクスを上場へと突き動かしたのではないかとも思う。
志村氏は大学卒業後、技術者としてカシオ計算機に入社した。そこで出会ったのが、カシオ計算機の創業者のひとり、樫尾俊雄氏だった。技術者として類まれな才能をもつ樫尾氏に対し「技術屋としては、この人にかなわない。それなら、この人を使う立場になろう」入社2年目でそう悟ったというから、志村氏もまた類まれな人物だ。
志村氏は、優秀な技術をもつ社員を集めてチームを作り、自身は他社を含めたマーケット動向や技術の変化を読み、今なにをすべきかを見極める「技術プロデューサー」という役割を担った。チーム力で生み出した製品は、電卓、G‒SHOCKを中心としたデジタル時計、電子楽器、デジタルカメラなど、誰もが手にしたことのあるものばかりだ。
その間に、カシオ計算機は売上10億円から3000億円を稼ぎ出す会社へと成長。その功績が認められ、志村氏は史上最年少30代で常務取締役に就任している。
いまや、オプトエレクトロニクスには経験者や新卒者も含めて優秀な技術者が次々と集まり、次世代に向けた様々な研究・開発が行なわれている。
上場効果はもちろんだが、志村氏に憧れて入社してくる技術者が多いと聞く。志村氏は「男に惚れられるのは、親にもらった天性」と笑うが、大胆で何事にも動じず、なおかつ繊細な心配りが多くの人を魅了するのだろう。
3.時代は二次元バーコードへQRコードが世界標準になる
私が最初に志村氏に会ったのは、今から3年ほど前だ。当時のオプトエレクトロニクスは、大手投資銀行リーマンブラザーズ倒産を発端とした世界金融危機からの回復途上で、経常利益は最も稼いだ時期の半分程度(約4億円)にとどまっていた。そのとき志村氏は多くの投資家に向かって「あと3年待っていてほしい」と繰り返し説明をしていた。今、その約束した時間が経過した。「新たな拡大期に向けた取り組みを積極的に行なった3年間」(志村氏)だったという。
志村氏はCTO(chief tech-nology officer:最高技術責任者)として、自社で販売する完成品の開発に着手した。部品(=モジュール)を供給するだけでは「売上は安定するが、売上を伸ばすまでには至らない」からだ。新製品『Mobile+One』は、Bluetooth搭載の小型バーコード読み取り機で、スマートフォンやタブレットと組み合わせて使うことが可能だ。これならもっと多くのデータを管理したいという顧客の要望にも応えることができる。利益率も格段に上がるに違いない。
志村氏は「今後、バーコードの世界は二次元バーコードへと移行していく」と言う。横方向にしか情報を持たない一次元バーコードに対し、水平方向と垂直方向に情報を持つ表示方式の二次元バーコードには、より多くの情報を盛り込むことができる。現在、二次元バーコードは世界中で様々な形状のものが乱立しているが、「日本のQRコードが世界基準になる可能性が高い」(同)。一部がしわになったり欠損してしまったりした「難読バーコードの解読」にも絶対の自信を持っており、その技術の蓄積は一朝一夕にできるものではない。その技術力が世界中で必要とされる日は、そう遠くないだろう。
これまでの人生を「変化にチャレンジしてきた50年だった」と振り返る志村氏。75歳を過ぎた今もチャレンジの気持ちを忘れない。CTOとして、取締役会長として育てあげた「オプトエレクトロニクス」は、サプライヤーから製品メーカーへと、チャレンジを続けている。変化に対応するための創造力、利益を生む経営力を備えた同社の次なる一手が、今から楽しみでならない。
インタビューを終えて
オプトエレクトロニクスでは「次世代に向けた研究」として「バーコードを超えた未来の技術」に取り組み、現在、OCRと呼ばれる文字認識、生態認証であるバイオメトリクスをはじめ、顔の認識や人の個体の認識についての研究開発を進めています。また、単価が高いためなかなか普及していないICチップやICタグの認識技術であるRFIDの研究も本格化。その先にはこれまで培った技術を応用した「人工知能」の開発も視野に入っているのだと志村氏は語ります。「あらゆる物を自動的に技術で認識する未来」は、もうすぐそこなのかもしれませんね。